つくるひと#3 たきむらゆきさん

 3回目となった今回は、トランペット奏者であり1児の母、そして現在2人目のお子さんを妊娠中のたきむらゆきさんにインタビュー。自分の思いをアウトプットすることの難しさや、幼い頃から続けてきた音楽の魅力について聞いた。


書きたい時に出会った「つくるひと」

 取材当日、待ち合わせ場所にやってきたゆきさんを見て開口一番、「小さい。そして可愛い」と口走った。彼女とはオンライン上での面識はあったものの、直接会うのはこれが初めて。画面から伝わる優しげな雰囲気と、「はぐみ」で見せる繊細な文章に素敵な女性だと確信はしていたけれど、そこに140センチ前半の身長が重なると、もはや凶悪レベルの可愛らしさである。(一目惚れか)

 「この身長だと、気に入った服や靴を探すのも一苦労なんです」と語る彼女は、現在2人目のお子さんをお腹に宿していて、年内には出産する予定だ。


 ゆきさんは以前から、ノートやブログに自分の思いを書くことを習慣にしていた。しかし最初の出産を終えると「書きたい」という気持ちが湧かず、2年ほど書くことを止めていた。

 その後、だんだんと自分の中でやりたいことやモヤモヤとした気持ちが出はじめ、「これは一度書いて、自分の気持ちをしっかり整理しないといけない」と思うように。「はぐみ」が「つくるひと」の募集を始めたのは、ちょうどそんなタイミングだった。

本当の自分を掘り起こす

 「つくるひと」になって最初の記事は、今までたまっていた思いを比較的スムーズに形にすることができた。しかし、問題は2回目。どこに焦点をあてるべきか、どこまで書くべきか。悩みながら書き直しを重ね、自分の本音に耳を傾けながら掘り起こしていった。

 「書きながら、本当は気づいていたけれど埋まっていた自分みたいなものを出すことができました。そうやって自分と対話できたことは、私にとって大きなことだと感じています」

 子どもの頃から自分の意見を通すよりも、物事が上手くまわっていくことを考えるのが好きだったという彼女。音楽を演奏する時も首席や周囲に合わせて調和を図ることに魅力を感じていた。他人と比べて「このままじゃダメだ」と行動したこともあったが、今では調和や調整といった役割を担うのが自分らしさだと理解している。

音楽をもっと身近に感じてほしい

 そんな彼女が初めて音楽に魅せられたのは3歳の時。テレビでピアノの演奏を見て「これがやりたい!」と強く思ったという。その後、2年間に渡って「ピーアーノーがーやーりーたーいー」と言い続け(そんな言い方はしてない)、根負けした母がエレクトーン教室に連れて行ってくれた。

 「わーい、ピアノだ!ピアノ…だ?大体、ピアノだ。ピアノっぽい!」と、ピアノとエレクトーンの違いに首をかしげつつも、弾けることの嬉しさが勝って高校卒業まで通い続けた。さらに中学時代に所属していた吹奏楽部で「空いているパートのうち、体に合うなるべく小さい楽器」という条件に合ったトランペットを担当。大学進学後もトランペットを続け、現在に至っている。


 子どもの頃は自分を表現する場として音楽と接し、演奏の腕を磨く楽しさを覚えた。やがて大学や社会に出てからは、音楽が生まれた背景や歴史を知ることで演奏をより深めていった。

音楽は血が通って生まれる芸術。高尚な存在ではなく、当時の人々の思いや思想が混ざり合ってできている。だからこそゆきさんは、クラシック音楽は敷居が高いと感じる人たちにも、音楽は身近な文化だと伝えたいと語る。


 「出産後、落ち着いたらママさん向けのアンサンブルコンサートをやりたいと思っています」

 自身の経験もふまえ、子育てに忙しいママさんだからこそ、たまには一人でゆっくりと音楽にふれる時間を味わってほしいと願う。


 今後は「はぐみ」への掲載を休んで出産に専念する。元気なお子さんを生んで戻ってきた時、彼女は「はぐみ」で何を語るのか。その時を楽しみに待ちたいと思う。


<たきむらゆき>

演奏家。一児の母。本当の気持ちをなかなか出せず、いつもニコニコ。今度はいろいろな気持ちを伝えることを練習中。



取材協力/SoRa Cafe feat Waffle Cafe Sign

撮影/髙橋直美

取材・文/山口由